To.カノンを奏でる君
いつの間にか熱中してしまっていたらしい。
茜色の日が窓から差し込んでいるのに気づき、開いていた本をしおりを挟んで閉じた。
病院とは基本的に暇な場所だ。治療する時は治療だが、大半は点滴を打って味気のない食事をして大量の薬を飲む。その繰り返し。
学校のような、何が起こるか分からない興奮など味わえない。
「あー…学校行きてぇ」
ごろんと寝転び、真っ白な天井と向き合う。
読書を始めたのは、この長期入院が始まってからだ。
調子の良い日はやる事がなく暇を持て余していた時、由希に読書を勧められた。本は知識の宝庫だと誰かからの受け売りだろう事を言って。
そんな訳で取り敢えず、読みやすそうな薄い本から手に取った。すると、短いながらも細かい設定に内容に感動させられ、暇があれば読書するようになった。
「ヘ……っくし!」
ズズッと出かかった鼻水を戻す。
近頃冷え込んで来た。院内は暖房が効いていて心地好いが、窓を開けて換気した時の外の寒さは身を持って感じる。
暖まろうと、小さなクローゼットからから紺色のコートを取り出し、羽織った。
風邪でも引いたら大変だ。院内感染は瞬く間に広がっていく。病人にとって風邪は命の危険にもなりうるものなのだ。