To.カノンを奏でる君
(そろそろ来てもおかしくない頃ね)


 美香子は壁にかけられている黄色の時計に目をやった。


 ご馳走はもう並べた。飲み物も同じくテーブルの上に、お茶とりんごジュースとストレートティーを用意してある。

 ケーキは、美香子が来た時には既に冷蔵庫に入ってあった。昨夜、直樹が作ったらしいフルーツ盛りだくさんのショートケーキ。


(ほんと、器用よね)


 女の自分より上手にお菓子を作る直樹に少し嫉妬しながら、飾りつけを終えた。

 折り紙で作った輪をいくつも繋げた、定番の飾り。

 綺麗に飾られたリビングを見回し、美香子は満足そうに笑んだ。自分にしては上出来だ。


 椅子から降りて椅子を元の場所へ戻す。


「あら、綺麗ねー」


 リビングを見回しながら、直樹が入って来た。すると美香子は急に不機嫌になる。


「ちょっと。貴方の家よ? 何で私が一人で飾りつけをしなきゃなんないわけ」

「細かい事は気にしない、気にしない。上出来じゃない」

「当たり前よ。何してたの」

「ん? これ探してたのー」


 ずいっと美香子の前に差し出したのは、カラフルなデザインのクラッカーだった。


「大分前に買ってね、余ったやつ」

「大分前って。………。使えるの?」

「使えるんじゃない?」

「適当な…」

「大丈夫よ」


 直樹の言葉と呼び鈴が重なった。直樹はパッと顔を輝かせ、玄関に駆け出す。

 美香子は呆れて、額に手を当てた。
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