To.カノンを奏でる君
「いらっしゃ~い!」


 嬉しそうな高い声の直樹。


「お招きありがとう。何も準備してないけど、いいのかな」


 落ち着いた柔らかな高い声は、花音のものだ。


「あ、済みません、俺まで招待してもらって。全然関係ないのに」


 初めて聞く声だ。

 噂の早河君、どんな人物なのだろうかと美香子はわくわくする。


「とにかく上がって」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」


 直樹が先頭に、二人はリビングに入って来た。

 ソファーに座っていた美香子は立ち上がり、訪問客にとびきりの笑顔を向ける。


「いらっしゃい、花音ちゃん」

「美香子ちゃん! 早いねぇ」

「主催者の一人ですもの。そちらは、早河君?」


 ついと目を向けると、早河は体を固くした。どうやら緊張しているらしい。

 美香子はくすりと笑い、右手を差し出した。


「葉山美香子です。花音ちゃん達とは、中三からの付き合いで。よろしくお願いします」

「あ、早河隆太です! よろしくお願いします!」


 美香子の差し出した右手を握り返すと、隆太は笑みを浮かべた。美香子もつられて笑みが深くなる。

 あぁ、こういう人か、と美香子は思った。

 祥多とは違う魅力を持った男性。直樹が早河はどうだと花音にけしかけたのも、分かった気がした。


「直樹君は? 自己紹介は済んでるの?」


 美香子は振り向き、直樹に問う。


「初対面ではないけど、自己紹介はまだね。花園直樹です、よろしく」


 にっこりを笑みを浮かべ、直樹は右手を差し出した。早河はその手を握り返し、気づく。
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