To.カノンを奏でる君
「買い物付き合ってくれた礼に何かおごる」

「わーい。じゃあアレがいいなー、玖々留のトマピキュロケーキ」

「……何だそりゃ」

「トマト・ピーマン・キュロットのケーキ」

「……随分と健康そうなケーキだな」

「うん、美味。あ、あと、きな粉アイスも追加!」

「おいおい、野菜にきな粉って……お前、おばさんくせぇな」

「失礼な。おいしいんだから!」

「ハイハイ」


 レジで会計を済ませ、喫茶・玖々留に向かう途中、小物を見たりして道草を食う。

 ピアスのコーナーを、花音は値踏みしながら見て行く。


「ピアス?」

「うん、そろそろ開けようかなって」

「草薙はやたらでかいピアスより、ちまっとしたピアスの方が似合うと思うぜ?」

「え、何で?」

「ちっこいから」

「………帰る」

「げっ! 冗談だって、冗談!」


 帰ろうと方向転換した花音の腕を、早河が慌てて掴んだ。

 恨めしそうに早河を見上げる花音に、早河は笑う。


「トマピキュロケーキときな粉アイスが待ってるぞ?」

「ゔ……」

「ほら行こうぜ」


 強引に腕を引かれ、花音は玖々留へ向かわざるを得なかった。















 注文して長く待たない内に、トマピキュロケーキ、きな粉アイス、珈琲とオレンジジュースが運ばれて来た。

 花音は目を輝かせ、満面の笑みで、きな粉アイスを口に運んだ。


「んーっ! おいしーい!」


 頬が落ちてしまわないように左手で支えながら、目の前のアイスを存分に味わう。


「幸せー」


 本当においしそうに食べる花音に、早河は思わず笑みを零す。
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