執事と共に賭け事を。
恵理夜は、首をかしげた。

その様子にヒガキは、生徒を褒めるかのように頷いた。


「でも、さっきも言ったとおり僕の力では割ることはできない。素手ではね。けど、僕は知っていた。その車のダッシュボードには、窓を割るための小さなハンマーが入っていることを」


恵理夜の目が見開かれる。


「僕は、胸まで水につかりながら夢中でダッシュボードを開けた。そして、ハンマーを探し当てて後部座席の窓を叩き割って、死の空間から抜け出した。そして、その直後に引き上げられて助かった」


ヒガキの苦しそうな表情は一変、凄惨な笑みへと変わった。


「その空間を抜け出すための知識、ハンマーを探し当てる力と運。そのどれか一つでも欠けていたら、僕は死んでいただろう」


恵理夜の勘が及ばない、その瞳が真っ直ぐに射抜いてくる。


「知識、力、運……絶望的な状況の中でも、僕は全て兼ね備えていた」


カードが全て、配り終えられる。


「僕は、強いよ」


――ゲームが、始まった。
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