執事と共に賭け事を。

「もし、君がこの状況に立たされたらどうする？」


恵理夜はただその絶望的な状況を想像するしかなかった。


「沈みゆく車の中に閉じ込められたとき、助かる方法は２つある。一つは外の水位と車内の水位が同じくらいになったときにドアを開けること。水圧が均衡になるから理論上ドアは開く」


理論上――恵理夜の疑問を見透かしたかのようにヒガキは言った。


「でも、それでも相当な力が要る。加えて、外と車内の水位が同じになるのは、顔まで水が迫っているときだ。恐らく、幼くて非力な僕には開けられなかっただろう」


水が顔に達する頃にはパニックに陥るだろう。

そのパニックのまま、水を飲み、窒息し、死んでいくのだ。


「そう、僕は死んでいるはずだった。けれど、助かった」


ヒガキの呼吸が整えられる。

そして、指を立てた。


「もう一つの方法は、車の窓を割って外に出ること」