執事と共に賭け事を。
「単純なトリックほど、小手先の器用な相手には有効なものです」

「長袖で、よかったということね」


恵理夜は、そう言って肘の内側から二の腕に掛けてをさすった。

恵理夜は、腕にある注射痕のコンプレックスを払拭させてくれた彼に感謝した。

ゲームの中では1枚しかないはずのジャックがなぜ突然現れたのか――


「貴方が、あんな大胆なことをするとは思わなかったわ」

「注意を逸らすためでした。ご無礼を、お許しください」


『私の運だけでも』――そう言って春樹が、恵理夜の袖に手を入れたとき、そこにカードを忍ばせたのだ。

それが、スペードのJ《ジャック》――最後に出した2枚目のJだった。
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