お願い、抱きしめて

「音也」


「?」



黙ってばっかなオレの耳に、深見の声が届く。もう一度、涙を静かに拭って耳を傾けた。



「これから、たくさんの事を経験しろ。学校もちゃんと行って友達もたくさん作れ。恋愛だって同じだ。失敗くらいしたっていい」


「はい…」



オレより何十年も長く生きてきた深見の言葉は、誰よりも胸に染みる。すんなりと、ゆっくり、色鮮やかに。



「全部繋がるんだから。お前の演技をする糧となる。…人生なんて、上手くいかないくらいが丁度いいんだ。人間誰しも辛い壁に当たる。それでも進むべき道をしっかり見据えろ。いろんな人とたくさんの出会いも大切だ」



言葉を選ぶように、語りかける。時折後ろを向いて、笑いながら。


前を見つめるオレに、その言葉は必要不可欠で、とっても大切で夢を諦めたくないと心から思った──…


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