お願い、抱きしめて
それぞれの夢

◆◇



「泉ってさ…その、好きな人とかいないわけ?」


「はっ!?ちょっと!何よ急に」


「いや、何となく」



変な疑いの目で、泉からの痛い視線を隣で受ける。アフレコのブースの中がこんなに、心折れる場所なのかとはじめて思ったほどだ。



「あっそ。生憎私は、色恋沙汰にうつつを抜かすほど暇じゃないのよ」


「そーですか(聞いてしまって、すみませんね!)」



ボールペン片手に、台本と睨めっこする泉は真剣そのもの。オレは、自分の台詞チェックを行いながら、何とか事情を聞き出そうと頭を悩ませる。


そう…。あれは数日前。仲の良い先輩から「泉さんに好きな子いるのか聞いてよ。音也、事務所同じだろ」とか、何とか言われて断る術なくこの始末。


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