お願い、抱きしめて

浮かぶ言葉は、頭の中でたくさんある。「あ」の文字さえも、口に出すのが怖い。


意地張って言えなかった「好き」が、余計に意地張って言えなくなってしまった。



「好き」を伝えるのが…弱虫でヘタレなオレには最初から無理だったんだ──…



「音也くん?」


「さよ…なら」



後ろで、強く握ってた雑誌をその場に置いて別れの言葉を告げる。


弱々しく、最後まで震えた台詞。くるりと背中を向けて、オレの名前を再び呼ぶ菜子さんの声が遠い。


涙が出るより先に出る感情は悲しいとか泣きたいじゃなくて、告白さえできなかった自分が情けなかった──…


< 114 / 201 >

この作品をシェア

pagetop