お願い、抱きしめて
思い出の場所と小さな決意
◆◇
9月上旬のある日の事務所。スケジュール確認をしに行ったらばったりと泉と遭遇。嫌味な顔つきをされた上にけなされた。
「どうも。あなたまだ声優してたの?」
「……」
失恋中のオレには、言い返す気力はこれっぽっちもない訳で。
「…泣きそうな顔しないでよ」
「…泉には、わかんねぇよ。失恋したオレの気持ちなんか」
投げやりで、呟いてため息を吐く。眉を八の字にした泉の視線。毒吐きも慣れてきたのか、泉と言う人間が今から毒を吐くのは予想済み。
その怖い視線から伝わる「メソメソしないでよ」とか、言いそうな顔つきさえ予想できた。