お願い、抱きしめて
「今日は機嫌いいね」
「いつも通りだけど」
「どこが。音也すっごい口元緩んでる」
「こんな風に」と、付け足して笑いながら真似してみせる和真。
「不細工な面するな。オレはそんな顔じゃない」
「ならどしたんだよ?お兄さんに話してみたら?」
勘が鋭いのか、ただ単に気になるのか。和真はニ、三回肘で突っついてオレに問いただす。
「実はさ──」
しつこく言い寄るので半ば諦めモード全開。仕方なく教科書を口の辺りに当てて、朱色の頬を隠しつつ小さい声で伝えた。
「と言う訳なんだよ。まっ、恋愛経験ゼロのお子様に話しても理解できないだろうが」
なるべく、いつも通りのオレでいようとクールにカッコつけて言ってみる。そんな心とは裏腹に、和真はゲラゲラ笑いながら否定文を下してきた。