閃火高遠乱舞
「…北朝鮮に不穏な動きがある、だと?」
 少々かすれた声で尋ねる彼の前には、一人の女性がいた。
女性と表現するには、いささか若すぎるかもしれない。
少女とも呼べるような顔立ちをした彼女は、しかし、立派な日本軍の一員だった。
「はい。急な徴兵をしています。軍馬などの整備から見て、どこかに攻め入る算段と思われます」
「…そうか」
 簡潔にまとめられた報告を聞いた帝は、横にしていた身体をむくりと起き上がらせた。
はらりと落ちる髪を鬱陶しそうにかき上げ、ちらりと視線を横に向ける。
 煌々と輝く月は頂点を過ぎていた。
あと幾刻かすれば、太陽が顔をのぞかせる。
「本日早朝、軍事会議を開く。諸将に知らせておけ」
「では…」
「ああ」
 足を床につけ立ち上がった帝は、流れていた髪を結うと椅子に掛けられていた上着を無造作に羽織った。
その双眸に寝起き特有の気だるさは感じられず、考えを窺わせない強い光が湛えられている。
「丁度よい機会だ。北朝鮮戦を我が日本軍の初陣とする。諸国に日本の恐ろしさを知らしめる、そのつもりでいろと伝えよ」
「ははっ!!」
 命を受け、女性は踵を返す。
それを見やった帝は、会議に向けて算段を立てるべく執務室へと向かう。
そこにまだ残っているであろう部下を思いつつ。


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