閃火高遠乱舞
煉瓦造りの建物が、ひしめくように並んでいる。林檎やオレンジなどが色鮮やかに盛られ、巨大なウインナーが天井から吊られている。人々で賑わう市場は、客のかき入れ時である夕方を迎えていた。
ドイツのベルリン。主城フリーデンは「平和」という意味を掲げながらも、その姿は重厚で荘厳だ。絢爛豪華な様はなく、強固な石が積まれた要塞。それがドイツの中枢なのだ。
ドイツ軍は、軍師が頂点に立っている。
「グウェンダル・フォン・エッシェンバッハ…ねぇ」
うんざりとした表情で城を見上げた青年は、手元の新聞を見て呟いた。
薄いマロンクリーム色をした髪を掻き回し、フリーデン城に目を向ける。しかしそれに反して、足は城とは逆に進められた。
「やーめた」
くるりと門から目を離した青年は、頭の後ろで腕を組みながら近くにあったレストランに入る。
青年の名は、シーナと言った。
シーナはレストランの窓際に座ると、ドイツの名物であるソーセージをメインにしたメニューを頼む。苦いビールは好みではない。
そんなとき。
「全員動くな」
穏やかでない声と音が、店内に響いた。
辺りは騒然となり、驚く声が上がる。椅子が倒れ、子供が泣き出す。その中央には、軍兵を連れた青年が立っていた。
漆黒に近い灰色の髪はゆるく結われ、細い目は知的な鋭い光を放っている。身につけている服も、ダークグレイだ。
ただ者でないことは、一目瞭然。