閃火高遠乱舞


 ドイツの南西部にバーデン・ヴュルテンベルク州がある。山地や丘陵が多く、その中心地はシュトゥットガルトだ。十三世紀に伯爵領として成立したこの土地だが、現在はドイツ連邦の一国である。
 ドイツの南西端にシュワルツワルトという山地がある。バーデンの大部分を占める山地のひとつであり、ライン川上流沿いにほぼ南北に走っている。針葉樹林に富むシュワルツワルトは、「黒い森」という意味を持つ。温泉や湖が多い、気候も温暖な場所だ。
 ここに、ドイツの軍部施設があった。
「山ん中に埋めるなんて、また凄いことを……」
 シュワルツワルトは北部が砂岩、南部は片麻岩と花崗岩から成っている。その砂岩を削り、地下に施設を嵌め込んだのだ。もちろんその上には、人工的な砂岩を乗せ、どこがそうなのか分からないよう細工がされている。
「どうすんだ?」
 新川がくるりと振り向く。それに応じたのは、帝本人だ。
「山頂で爆発を起こし、場所を特定する」
「バーデン・ヴェルテンベルクは温泉が多い。その源泉に大量のドライアイスを突っ込めばどうなる、林」
 聖徳の不意な問いに、林が困惑しながら答える。
「どうって…ドライアイスが昇華する……?」
「正解だ。その結果、多量の気体が一気に噴出する。マイナス八十度もの冷風が吹きおろせば、天盤の境目などすぐに分かる」
 境目ならば不自然な氷の膜を張るはずだ。そこをいかに早く大山が見つけ出すか。ここからはスピード勝負だ。
「出来るか?」
 帝の、半ば意地悪な試す言葉が投げ掛けられる。
「いけます!いえ、やってみせます!!」
「いい返事だ」
 大山の即答に、帝が口元に笑みを浮かべた。
「ドイツがヨーロッパ連合軍の中枢なのは、軍師による力が大きい」
「軍師…グウェンダルですね」
「そうだ。恐らく彼は、世界最高峰の軍略家だ。油断するなよ」
「了解!!」
 帝の一言に、一同は声を合わせて敬礼することで応えた。


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