閃火高遠乱舞
「クソッ」
 そう悪態を洩らしたときである。
「焦れてはなりませぬ。眼前の武を見極めねば」
「!!」
 頭に直接響く声に、宝王子が驚愕して動きを止めた。静かだが、力強く滾ったような声音。身体の中に何かが流れるような、むず痒さを感じる。
「…紅玉……?」
 そう。自分の体内にいて話かけてきていたのは、精神的に繋がった紅玉の化身だった。思い――つまり脳を使った精神的思考が能力を解放するのだ、不思議な現象ではない。己の考えの至らなさに、宝王子は羞恥を覚える。
「悔いられるなら、まだ大丈夫です。…さ、私の『姿』を」
「姿…」
 目の前に立つ新川を見て、宝王子は思考する。新川はスピードがない。そう前提を置きながらの組み立てに、スウッと頭の中に図が浮かぶ。ああ、これが暗天星華なのか。そう思うと同時に、紅玉の応じる声がした。
 宝王子が握る刀に、紅の蛇がまきついていた。槍を受け足蹴にすると、その周囲の酸素が宝王子を中心として集まり始めた。紅玉の炎は酸素を食い尽くさんばかりの勢いで周囲に広がる。それはダイナマイトより激しく、核よりも正確だった。
「一つ目…完、成……」
 宝王子はそこで意識を失う。具現化させるような強い力を使ったのは初めてだ、当然ともいえる。
 そんな彼を支えたのは、相手していた新川だった。
「ありゃりゃ…俺、なんも出来なかった……」
 チェと舌を鳴らした彼を、不意になだめる声がする。
「ま、いいんじゃねぇの?やっと『会話』できたらしいしな」
 青玉の化身だ。新川はとうに「会話」の段階も、「具現化」の段階も終えてしまっている。もっとも、まだ宝王子のように疲労は大きいのだが。
 宝王子を荷物のように肩に抱えた新川は、仄かに輝く紅玉・青玉を揺らしつつ宝王子の自室を目指して歩いて行った。



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