閃火高遠乱舞

 宝王子は新川と共に、調練用の個室に向かっていた。ドイツの引き際の潔さから、帝は重要拠点という情報は偽りだったと判断している。ドイツ主軍が出向いてきたのは、アメリカや中国のように日本の実力をはかるためだった。そう考えが到り、勝ち戦に喜んでいる暇は無いと思ってのことだ。
 今頃林や大山も、別の個室にいることだろう。各々の弱点を克服するには、やはり実戦が一番手っ取り早い。宝王子は正直、新川との対戦を苦手としていた。
 新川の弱点は速度。一方、宝王子の弱点は力だ。それぞれが、相手の得意分野を苦手としている。つまり、弱点克服に絶好の相手なのだ。
「よっしゃ、やるか!」
 ぶんぶん腕を回しながら言う新川の言葉に応じて、二人は駆ける。数秒後には、刃で押し合う二人がいた。
 しばらく膠着状態が続き、焦れた宝王子は身体を素早く反転し、蹴りを繰り出す。新川は慌ててこれを避け、距離を取った。宝王子はそれを追おうとはしない。
 腕がしびれていたのだ。逆に新川も、完全には避けきれず小さな切り傷を胸元に負った。今のところ五分と五分。宝王子は軽く息をついた。
 普段馬鹿にしているが、宝王子は新川の実力を認めている。特に、機動力に関しては世界のトップクラスに違いない。決して彼を甘く見ていない。
 宝王子の武器はスピード。スピードに長けた分、致命的な殺傷力には欠ける。確実に喉や胸を狙わぬ限り、一撃必殺にはなり難い。それがまた、彼を焦らせる。
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