閃火高遠乱舞


 時が動いたのは、北朝鮮戦を間近に控えた晩春のこと。宝王子たち将軍四人は、執務室に呼び出された。
 帝は正装し、聖徳が隣に控えている。厳重な守備は、否が応にも荘厳な雰囲気を醸し出していた。それを肌で悟った四人もまた、緊迫した面持ちで帝の前に並ぶ。
「急だが、客人が来る。この戦を左右するかもしれないような、重要な人物が」
「いったいどなたが……?」
 海外の重要人物に最も詳しい大山は、頭の中で次々と思い浮かべているのだろう、緊張で声を震わせる。一番疎い宝王子と新川には、あまり実感はない。
 帝の代わりに聖徳が一歩前へ出る。説明しようとしたところで、恭しく扉がノックされた。
「ご客人が到着されました」
「お迎えしろ」
 聖徳の言葉で扉が開く。護衛と衛兵に守られた二つの影は、若く見える。歳はあまり変わらないのだろう。
 一人は茶色の髪と濃い青の瞳を持つ青年だ。すらりと背が高く、細い。しかしその瞳は力と知性に満ちていた。
 もう一人の青年は金の髪と青い瞳をしている。背は高くなく、顔がまだ幼さを残している。あどけない、少年と言ってもいい青年だ。
「サイード殿下とカイル殿下だ」
 帝の紹介に応じて、二人が軽く一礼する。
「アメリカの第二王子、サイード・ラサーファだ」
「アメリカ第三王子のカイル・ラサーファです」
 背が高い方がサイード、幼い方がカイルだ。そんないきなりのビッグ人物登場に、宝王子をはじめとした四人は唖然を通り越して茫然とする。
「な…なぜ貴方のような方が……」
 いち早く理性を取り戻したのは、やはり要人に慣れた大山だった。
「お願いがあってきました」
「…お願い、だと?」
 サイードに反応した聖徳が、帝を庇うような形で立つ。暗殺しに来たと案じてのことだろう。しかし、それに反してサイードは一歩も動かない。
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