閃火高遠乱舞
「俺を日本軍に入れてほしいんだ」
「なんだって…っ!?」
 意外としか言えない。彼らは大国アメリカの王子、じっとしていれば軍人が国のために、自分のために戦ってくれる立場にいる。指揮することはあれど、手を汚す必要はない。
「どういうこと?」
 林が問うと、サイードが素直に心の中を吐露した。
「日本でもいるだろ?大事なモンのために、敵方につくヤツが」
 有名なのは、戦国時代の真田一族だ。真田信幸は真田一族と父・弟の命を救うため、自ら敵方である徳川に降った。彼の功績で弟・幸村は大阪夏の陣まで生き延びることができたのだ。
 サイードはその信幸と同じことをしようとしている。
「兄貴を救うためだったら、俺は、アメリカだって殺せる」
 彼の表情は怖いくらいに真摯だった。その顔に一同は何も言えなくなる。
「僕はサイード兄様から離れたくないだけです。アダリー兄さんなんてどうなってもいい」
 一方、今まで沈黙していたカイルはカイルで、強い意志を見せる。しかし、二人の意思は真逆と言ってもいい。方やアダリーのため、方やサイードのため。いつかは衝突するであろうことは知れた。
「帝……」
 どうしますか?尋ねる意味を込めて、宝王子は静かに眺める帝に目を移す。帝はのちの苦労より、今の打開を取った。
「よい。歓迎しよう」
「感謝する」
 こうして日本は、アメリカの大きな戦力を得ることになる。このことが戦争をさらに大きく、複雑なものにするとは知る由もない。









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