閃火高遠乱舞





 朝日が昇る。橙色がゆうらりと揺れて、黄金に輝く雲の隙間を照らす。日中とは違い、太陽の光は甘く柔らかい。優しく澄み切った風が吹く。
 黒い髪がなびく。寝起きで結われていない髪は、素直に風と戯れる。帝は室内に染み入る日光に軽く眉をひそめ、身体を起こした。ブルーのカーテンが揺れている。昨夜月を見ながら、つい詩を吟ずるのに熱中してしまった。気づけば朝ということは、少しは眠ったのかもしれない。
 ぼんやりと靄がかかったような思考をしていると、扉が鳴った。時間とノックの仕方から、おそらく聖徳だろう。入るように促すと、やはり見慣れた姿だ。
「起きていらっしゃいましたか。お早う御座います」
「…ああ」
 聖徳は黒い羽扇をぱたんと手で叩いて、従者を呼ぶ。するとすぐに人が来て、服と水を運んできた。熟練された動きで、無駄が全くない。少しでも遅ければ聖徳が不機嫌そうに見下ろすため、否が応にも迅速になったのだ。
 聖徳の細い眼が従者を捉える。鋭い視線は射抜くように注ぎ、低く「去れ」と命ずる。そんな様子を気にすることもなく、帝は持ってこられた衣服を身に着け始めた。
「聖徳」
「は」
 ふと、帝が聖徳を呼んだ。聖徳はベッドを整える手を休ませることなく、応じる。一見すれば不敬だが帝は無駄を嫌う、お咎めはない。冴えてきた頭を自覚したころ、ようやく帝は口を開くのだ。
 帝が決意をたたえた瞳を聖徳に向ける。聖徳は射るような強い光に、帝が言いたいことを悟る。サァッと表情が軍師のものに変わる。
「一週間後、北朝鮮を堕とす」
 その報せはすぐに知らされた。
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