閃火高遠乱舞
「どこ行っても着いてくんだぜ?ありえねぇ…」
 誰のことかと言えば、カイルのことである。どこで鍛練しようとも、見えているような正確さでカイルはやってくる。このことで、宝王子はカイルに嫌悪感を深めていた。本能的にも生理的にも受け付けない。そんな彼に付きまとわれ、精神的に参らぬわけがなかった。
 そこに、近づく二人がいた。
「ならば、私の護衛につくか?」
 帝だった。珍しく時間に余裕があったのか、食事を食堂で摂るつもりらしい。聖徳は甲斐甲斐しく帝の分の食事を取りに行っている。
「護衛…?」
 新川が訊ねる。宝王子の疲労は身体のものではない。このままでは、近いうちに倒れてしまう。そんな彼を慮った新川に、帝が答える。
「近いうちにフランスから使者が来日するという知らせがあってな」
「フランスって…EUですよ!?来るんですか!?」
 帝が告げたスケジュールに、伏せっていた宝王子が勢いよく身体を起こす。フランスと言えば、アメリカ・中国と対立しているヨーロッパ連合軍の一国だ。先にドイツ遠征をした日本に、何をすると言うのだろう。宝王子の驚愕は尤もだった。
「攻撃はすまい」
 帝宛てに届いたメールには、フランスの国王が近いうちに孫に継承されるとあった。来日するのは、その次期国王となる人物だ。事件を起こすためにわざわざ日本へ来るとは、到底思えない。
「なーる。んじゃあ俺も!!」
 結果、明日の雷迅・疾風は全面休息日となった。帝の付き人は宝王子と新川。完璧軍人オンリーである。しかし、帝が口車に乗せられるとは全く考えられなかった。





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