閃火高遠乱舞
 聖徳は、自分と帝の間に人が介入するのを酷く嫌う。時間を壊されるのすらも嫌悪しているのだ。立派な理由があり信用もできる大山ならともかく、「兄のために日本に来た」と堂々宣言したサイードを信用しているとは思えなかった。
「わーかった。帰国したら相手するよ」
 宝王子はサイードに応じた。無闇に帝に近づけて聖徳の機嫌を悪くさせるより、自分といた方が面倒がなくていい。そんな調子なのだから、すぐに許可も下りるだろう。
 これは秘密なのだが、実は宝王子はカイルを苦手としていた。何をたくらんでいるか分からない。それが宝王子の、カイル像だ。腹に一物抱えているように思えてならない。
 サイードにはそれがない。だからこそ帝はサイードの願いを聞き入れたし、宝王子も時間を割いてもいいと思える。
 後に、酷く後悔するとも知らずに。
 帰国すると、日本の景色も夏から秋に移っていた。一番潤っていて、一番忙しい季節だ。米を刈る機械の音や、野菜を収穫する人たちの話し声がする。穏やかな秋だった。
 宝王子は新川の前にいた。北朝鮮戦から三日が経っていた。
「王子、大丈夫か?やつれてんぞ」
「…おぅ」
 新川の前で、彼はぐったりと机に伏していた。そんな様子を憐みたっぷりの目で見るが、強情を張る気力もないらしい。
 あれ以来サイードと鍛練することが多くなった宝王子だが、もちろん肉体的疲労でこうなっているわけではない。実戦に比べれば、命を賭けた争いでないのだから楽に決まっている。
 そう、これは精神的な疲労だ。
< 73 / 95 >

この作品をシェア

pagetop