閃火高遠乱舞



 フランスはヨーロッパ大陸西部に位置する共和国である。本国のほかに海外県・海外領土を持ち、約二百万人が暮らしている。
 パリの中心に建つ宮殿は壮麗風雅だった。扉や天井に施されている細工は一つひとつ異なり、磨き上げられた乳白色の床は真珠のようだ。
 中庭には多様な花々が季節ごとに咲き乱れ、静かな音を立てる噴水もまた立派な造りをしている。
 そんな中庭をゆったりとひじ掛けに凭れ眺めていたのは、宝王子たちと別れてしまった新川である。基本的に動くことが好きな彼は、早々城内案内に飽きてしまっていた。あとは任せたと離れたはいいものの、手持無沙汰でしょうがない。
 一面真っ白な薔薇で埋もれ、むせかえるような甘い香りがその場を覆っている。手入れが行き届いている、素晴らしい大輪の花だ。
 しかし、悲しいかな、新川はそのような情緒を持ち合わせていない。彼にとっての花とは季節を告げるものでしかなく、興味の対象ではないのだ。これが食べ物ならば、話は別なのだが。
 ともかく新川は暇だった。退屈していた。
 そこに人が現れれば、振り向くのも当然である。
「…キエラ?」
 声に反応して振り返れば、金髪と碧眼を持つ典型的なフランス人が怪訝そうに見ていた。切れ長の眼は涼やかで、背は外人のためか宝王子より少しばかり高い。
「えーと…スンマセン。俺、フランス語さっぱりで……」
 英語で返した新川の言うことがわかったらしい。頷き応じると、流暢な英語に直されて話してくる。
「誰だ、といったんだが…そうか、お前が日本から来た将だな?こんな所で何をしている」
 顔かたちから、話に聞いていた日本人だと判断したらしい。胸から下げた入城許可証を見つつ、新川に目を向けた。
 ――その問いに、
「私が待たせていたんだ」
 そう答えたのは、後ろから近づいてきていたミカエルである。新川たちが出国する前に帰国していた彼女は、つい先ほど戴冠式を行っていた。現在はフランスを背負う、女王陛下である。その斜め後方につくラブラドールは大量の資料を抱えていた。
「あれ、何でもう合流してんだよ?」
 そんな中で、新川は宝王子・大山・林の姿を見つけた。その隣にトウヤもちゃっかりいたりする。仲間外れにされた、と新川はブーたれつつ抗議する。
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