閃火高遠乱舞
 宝王子は意識が薄らいでいくのを感じていた。抜き放った刀を人血で濡らしつつ、新たな獲物を見て取って突きかかってくる敵の槍を真っ向から叩き落とす。敵が驚く暇も与えず腹部に刀を突き入れたときには、すでにその男のことは意識から消え去っていた。飛沫を上げる血には目もくれず、宝王子の刀はもう次の相手と斬り結んでいる。
 敵を倒し、生き延びるためだけに透徹していく意識は、半ば快楽に近い。流血と死の悲鳴だけがもたらす、特異な生の感覚だ。
 思考ではない。意識でもない。本能の中でも最も根源的かつ原始的な反応で死を回避しようとする瞬間、確かに自分は生きているのだと実感する。生の喜びは、何にも勝る快楽に違いない。
 戦場で生きることを生業(なりわい)とする人間ならば、多かれ少なかれ持つであろう種の感覚だ。
 煙幕が晴れる。いつの間にかクラウディオが開けた大窓から、強めの風が流れ込んできた。それが血の匂いを薄めていく。
 女王陛下を狙ったと思しき敵の一行は、早めに散開していた。いや、散開してくれていたと言うべきだ。もっと長く粘られていたら、危なかったかもしれない。
 かくして、数十人の死者とそれに倍する数の負傷者という、無目的の戦闘の結果としては随分手痛い損失を受けることになってしまった。しかし、全く不本意な結果とも言えなかった。むしろ、あの状況ではマシな方だろう。






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