ブラッククロス
風の包囲網が狭まる…。





もう私一人の手には終えないらしい。
あれは…。惹き付ける力を持って生まれた高貴なバンパイア。






煙の流れが変わる。






暗闇でも見える片目を細めて微笑んだ。






「来ると思っていましたよ。」






「それは私に対する皮肉か?」






「随分と遊ばれたようですな。」






「くすっ…。まぁな。」





眼帯をいじりながら暗闇に話しかける。
「これは独り言…。」






「…。」
秘密の部屋は静か。
今は訪れるものもなし。





「存在がばれたようですな。甘いものには吸い付きたくなるような虫が沢山いる中、何処かの虫が邪魔な物は排除しようとしているようだ。」






「死体に群がる蠅か…。」





「風は何処か遠くに吹いていく。」






「そうか…。もう時間はないらしいな。」






「世話に…。なった…。」






「勿体無い言葉…。」






「バンドー…。彼女はいずれ…。」






「あの者も…。」






「同じ香りがする。母と…。出来れば同じ道はたどらせたくない。」






「貴方様は時に優しすぎますな。」






「ただの気まぐれさ。」





片目のバンパイアは静かに目を暗闇に向ける。






風の流れが変わる。






秘密の部屋は静か。
空気は重く、煙の香りが仄かに漂っているだけだ。






「御武運を…。翡翠のアサシン。」






風は去った。
この手からいつかすり抜けて行くのを知りながら慈しみ、育て上げ。






いや。元より生き抜く力を持っていた。
私が…。惹き付けられた。





翡翠の瞳。
魅惑の瞳を宿していた。
生まれながらの暗殺者。





解き放たれた風が何処に行くのか…。






「別の暗部が動いているな…。」






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