阿鼻叫喚
交差点の反対側には、信号待ちをする大勢の人間が待ち構えていた。
そしてこちら側にも、続々と人が集まり始めた。

しかし電話の声は、すれ違う人間と言っていた。
つまり追い越す人間や追い越される人間には、注意を払う必要はないのだ。

男は反対側の人間だけに意識を集中した。

やがて信号が変わり、一気に人の波が交差点へと流れ込む。
五~六人を数えたところで、流石に人混みに数を見失う。
男は慌てたが、突然一人の人間に目が留まった。

間違いない。
この男が13人目だ。

瞬時に察した。
そこには自分自身がいたのだ。

もう一人の自分は不吉な笑みを浮かべると、鋭利な刃物で男の心臓を刺し貫いた。

男は声を上げる間もなく、その場に倒れ込んだ。


翌日の新聞には『白昼堂々人混みの中で男が自殺』との見出しが踊っていた。

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