潮騒
「…興味?」


「北浜のこととは別に、ルカってマクラ嬢のことが気になった。」


ただそれだけだと、彼は言った。


その顔が今までで一番優しく見えた気がしたのは、気の所為だったのだろうか。


パタリとドアが閉まり、あたしはその場に崩れ落ちる。


あんな恐ろしくて、そして怪しい男がいなくなっただけで、どうしてこうも虚しくなってしまうのだろう。


バッグを漁り、煙草を取り出してから、深く煙を吸い込み吐き出した。


目を瞑ると思い出す、彼の左腕に住み着いていた唐獅子。


今ではどこか夢の中での出来事だったみたいで、現実との区別がつかなくなりそうで怖い。


あたしの腹部には、確かに情事の痕跡が残されたままだというのにね。


吸い込まれてしまいそうだった、彼の瞳。


ベッドに倒れ込むと、途端に気が抜け、意識が遠くなっていく。


ひとり膝を抱えてで泣いている女の子は、誰だったか。


そうだ、あれは――。











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