潮騒
「ルカさんはやっぱり今も、恋愛なんてする気はないと思ってますか?」


マサキの存在はもう、あたしの中で大きく膨れ上がりすぎていて、きっとそれは否定なんて出来ないと思う。


けど、でも、そんなに綺麗なものじゃない。



「あたしはただ、甘えてるだけなの。」


「………」


「自分を守ろうとしかしないくせに、許されたいって思ってる、最低な女なんだよ。」


煙草を咥え、吸い込んだ煙を吐き出した。


ライトに照らされてたゆたうそれが、静かに揺れる。



「人なんて結局みんな、自分自身を守りたいに決まってますよ。」


美雪はぽつりと呟いてから、



「だから例え誰かを傷つけたって悪くないはずなのにね。」


まるで自分自身に言っているような台詞だった。


彼女は視線を上げようとはしない。



「何か皮肉だなぁ、って思いますよ。」


あたしは聞いていることしか出来なかった。


何かに迷っているのだろう美雪にさえ、掛ける言葉が見つけられないから。


ネオンの色にまみれたこんな街じゃ、正常な感覚さえもいつの間にか薄れゆくのだろうか。


傍で笑い合っていた不倫カップルは、ふたり、腕を組んで店を出た。


今日は笑顔ひとつ見せない美雪の心の内なんて、あたしにはわからない。



「時々疲れちゃうんですよね、何もかもに。」

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