潮騒
美雪の繋いだ手を引いた。


まるでそれは、昔のお兄ちゃんとあたしみたいだ。


だから一瞬出遅れて、でも再びその背を追おうとした時、



「ルカ、悪ぃけどふたりにして?」


レンは覚悟を決めたような目をしていた。



「俺が美雪とちゃんと話すから。」


「…でもっ…」


「心配しなくても、あとで電話するからさ。」


顔を上げないままの美雪の頬を伝うのは、未だ流れる涙なのか、雨粒なのか。


彼女は力なく、レンに引かれるままに背を向けた。


抱えたものと、隠さなきゃならないこと。


人はそこまで強くはいられない、とレンは言っていたけれど、次第に見えなくなっていくふたつの背中は、ひどく悲しげに映る。



「…レン。」


どんな道を選ぶかなんて、ふたりが答えを出すことだ。


けれど願わくば、やっぱり涙を流すような結末なんて見たくはないから。


あたしは雨粒に染められた中で、顔を俯かせた。


傍を走り抜けるように通り過ぎた幼い兄弟に、過去の自分を重ね合わせてしまう。


フラッシュバックしたような残像と、手首の痛み。





歯車はいつも、
狂った後でなきゃ気付けないね。









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