潮騒
何も言えなくて、けれどそれを肯定と捉えたレンは、



「ルカは裏切るんだな?」


「………」


「その男を選ぶってことは、ユズルくんがあんな殺され方したことに対する冒涜だと思わねぇのかよ!」


レンは決してあの日のことを、“事故”だとは言わない。


それがひどく痛みを帯びてこの場所に響く。



「だからって、一生そうやって憎み続けるつもりなの?」


あたしの問いに、彼は汚物でも見るような目つきで、



「俺には、許そうとするルカの神経の方がわかんねぇよ。」


「………」


「この15年間のお前の苦しみは、そんな簡単に消えんのかよ!
許せばそれで全部終わりになるのかよ!」


レンは地面に落ちたサングラスを、ガリッ、と踏み付ける。


そしてこちらへと斜に視線を移しながら、



「妹がそんなんじゃ、ユズルくんが不憫すぎる。」


「………」


「何より所詮はお前らが幸せになれるわけなんてねぇんだ。」


そう吐き捨てた彼は、



「俺にはもう裏切り者のいとこなんて必要ねぇから。」


ガッ、と再び踏みにじられたサングラスは、地面で粉砕した。


レンはこちらを睨むように一瞥し、きびすを返す。


それは絶縁宣言にも等しかった。

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