潮騒
惚れた相手のために何かをしてあげたいと思うチェンさんの気持ちは、痛いほどにわかる。


そのためならば、手段なんか選んでられないことだって。


他のものを犠牲にしなきゃならない気持ちだってわかるけれど、でもこんなのあんまりじゃないか。


マサキの中ではもう、金を返せばそれで済むという話ではなくなっているのだ。


一番に分かり合えていた親友同士だからこそ、深く刻み込まれた溝。


彼はもしもチェンさんを見つけ出したとして、その後どうするつもりなのだろう。


復讐心では何も解決なんてしないのに。



「…何で、こんなことにっ…」


ぼたり、と床を染めた涙。


どうしてもっと早く、ちゃんとマサキに聞かなかったのだろう。


せめてあたしがしっかりしてればまだ、こんなことにはならなかったかもしれないのに。


今更後悔したところで、遅すぎるいうのにね。


ただ、窓の外には雨のけぶる音が響く。


神様なんていないと思いながらも、それでも祈らずにはいられない。


どうかどうか、人々の泣き声がこの雨に消されてしまいませんように、と。






誰もが幸せになりたかった。


けれどそれは、
他の不幸の上に成り立つもの。







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