潮騒
で、当然のように、今日も仕事だということを理由に、飲み明かした。


酒は弱い方ではないけれど、でもさすがにここまで気分が悪くなれば、飲みすぎたという自覚はある。


人のいなくなった更衣室のソファーでうな垂れていると、



「ルカさん、大丈夫ですか?」


キャストのひとりが不安そうな様子で近付いてきた。



「水持ってきたんですけど、飲めますか?」


「…えーっと…」


それより誰だっけな。


この店は、ノルマの厳しさと、競争というよりは戦争みたいなキャスト同士の攻防の所為で、入店した子の半数近くはすぐに辞めてしまうのだ。


おまけに在籍人数も多く、いちいち新人の名前なんて覚えちゃいられない。



「美雪ですよ。」


「あぁ、ごめんね。」


と、言ったところで、慣れ合う気なんてない。


差し出されたミネラルウォーターのボトルを受け取り、軋んだ体を起き上がらせた。



「何か見てられなくて。
ナンバーワンっていっても、大変ですもんね。」


同情でもしているのだろうか。


それともあたしと仲良くしてれば、何かメリットでもあると思っているのか。


途端に苛立ちが生まれ、



「アンタには関係ないでしょ!」


酒に焼けた思考の所為で、考えるより先に言葉は口をついていた。


が、彼女の方がはっとしたような顔で、



「ごめんなさい、知った風なこと言っちゃって。」

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