愛花
圭織は叫びそうになった。

画伯の描いた肖像画の前で圭織は真っ青になった。

まるで幽霊でもみたようにガタガタ震えていた。

゛圭織…どうしたんだ?″

゛何でもない。私、家に帰らないと…″

身仕度を整えて帰ろうとした。

゛また会おう。僕はここにいるから…″

圭織はうなずいた。

゛また来ます。″

画伯は鍵を渡した。

圭織は家に戻った。

母は帰りの遅い圭織を叱った。

圭織は何も言わない。

父のアトリエに入っていった。

あの絵を探した。

あの女の人の絵…

父が帰ってきた。

圭織は絵と向き合っていた。

゛圭織、お母さんが心配してるよ。何かあったのかい?″

゛お父さん…私…私の肖像画を描いてもらったの…その絵ね、この絵にそっくりなの。何故?何故なの?私はお母さんの子じゃないの!″

母が部屋に入ってきた。

゛何を言いだすの!帰りが遅いと思ったら…似た人なんて世間には何人もいるわよ。ねえ″

゛そうだよ。何故そんなことを言いだすんだ。″

゛私…血液型を調べたの。お父さんはO型でしょ。お母さんはAB型でしょ。私、O型なの。″

゛それがどうしたの?お父さんと一緒じゃない。″

゛AB型のお母さんからO型の子供は出来ないのよ。私、間違いかもしれないって思い込もうとしていた。けど…今日私の絵を見て…私はお母さんの子じゃないって確信した。本当の事を教えて…″

母はうつむいたまま黙っていた。

父は意を決したように話し始めた。
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