愛花
それでも和哉は教師を続けながら絵を描いているうちはよかった。

そのうち圭織との噂が冴子の耳に入り、プライドの高い冴子には耐えられない。

゛たかが生徒に高校生の小娘に和哉が心を奪われるなんて、私がいるのに…″

学校を辞めさせた。

丸井氏の仕事を手伝うように仕向けた。

冴子はまた遊び歩くようになる。

以前より派手に遊び歩いているうちに和哉が失踪してしまう。

冴子のプライドはズタズタになった。

狂ったように和哉を捜し出し圭織を攻撃した。

戻ってきた和哉の手を傷だらけにし、監禁して圭織を一人にした。

藍野マリに出された遺書には血が滲んでいた。

゛もっと私が和哉を見ていれば圭織さんをかばってあげたのに…情けないです。自分の事ばかりかまけていて、姉に申し訳ない。真中さんにも申し訳ない。悔しいですよ。和哉ももっと私を頼ってくれてよかったのに…″

藍野は泣いた。

父はやりきれなかった。

圭織を守り切れなかった自分と連れて逝ってしまった和哉に対しての怒り、そしてそんな男を愛してしまった圭織が不憫だった。

冴子が現れた。

゛叔母さま。和哉、お返ししますわ。あんな意気地なし…最低だわ…″

冴子の頬を叩いた。

゛何故私が殴られなければならないの!すべて和哉があんな女にうつつを抜かすから…″

田中巡査が冴子に近づいてきて声をかけた。

゛平岡和哉さんの奥さんですよね。平岡さんの両手の傷と両手首に残された拘束された跡にお尋ねしたいのですが事情によっては傷害事件にもなるかもしれませんね。″

冴子は青くなって黙っていた。

゛私が和哉の遺書を警察の方に見せてお願いしたのよ。あなたがこれから大人になるためには必要だと思ったから。恨むなら私を恨みなさい。弱いものにばかり攻撃するのは恥ずべきことよ。″

冴子はうつむいたまま田中巡査に連れて行かれた。

藍野マリは父に深々と頭を下げた。

父もまた深々と頭を下げた。
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