愛花
自分の言葉が信じられなかった。

私は親友の彼を奪おうとしていたのに彼女を幸せにしてね、なんていけしゃあしゃあと言えたものだわ。

私は今の私が嫌いになった。

悠史さんとしゃべっている私はどんな顔をしているんだろう。

上手な女優さんになってるんだろうか。

当たり障りのない会話をしたんだろうな。

記憶がはっきりしない。

原稿を持って帰る悠史さんを見送ったのは覚えている。

それから私は何をしていたのか覚えていない。

気が付いたのは激しい腹痛のせいだった。

息も出来ないくらいに痛くて、誰かに助けを呼ぶことも出来なくて、かろうじて救急車を呼んだ。

私のただならない様子に救急隊の人もあわてていたようだった。

次に私の記憶は病院にいた。

゛わかりますか?話せますか?″

若い看護師さんが私に問い掛ける。

゛は…い。″

゛お名前は?真中さんですか?″

うなずく。

゛下の名前は?″

゛アヤコ″

゛ご家族は?″

゛いません。祖母が病院に入ってるけど連絡はしないで。もう長くない人だから。″

゛じゃあ、彼氏は?″

 なんで彼氏なの?

返事が出来ない。

゛医師からお話しますね。気を落ち着けてきいてくださいね。″

ちょっと年配の女医さんが私の手をとって話し始めた。
< 56 / 70 >

この作品をシェア

pagetop