愛花
締切が迫ってきた。

それでも悠史さんは来ない。

幸せそうな絵は描けない。

寒い木枯らしの中にたたずむ絵を描いた。

今の私にはよく似合っているように思う。

もしクリスマスの夜に赤ちゃんを授かっていたら、悠史さんはどうするんだろう。

もしも、そうなら私は嬉しいんだけど彼はどうするんだろう。

可哀相なくらいになやむんだろうな。

私の心のBABYとして生きてくれたらいいな。

名前はノエル。

聖なる夜に宿ったBABY。

私はノエルを描くことにした。

勝手にストーリーをつけてノエルを描いた。

いつかこんな絵本を出せたらいいな。

絵本の中では幸せになれるだろうしね。

そうだ。

絵本を描こう。

少しずつでもノエルを描こう。

幸せな家庭に幸せなノエルと私、そしてパパ…

涙がひとすじ。

現実は雅美の赤ちゃんを悠史さんは抱くんだろうな。

幸せな家庭に私はいない。

締め切りの日、悠史さんが原稿を取りに来た。

゛先生、原稿を戴きにまいりました。″

えっ!

他人行儀な言葉に怒りを覚える私…

゛他人行儀なのね。いつもと一緒でいいのに…″

゛じゃあ…アヤちゃん…ミヤビのこと…″

゛ミヤビから聞きました。早く話してくれたらよかったのに…元のさやに戻っただけでしょ。彼女のこと幸せにしてね。私の親友なんだからね。″
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