愛花
゛アヤちゃん…″

゛悠史さん。どうしたの?″

゛どうしたのじゃないよ。救急車で運ばれたって聞いて…大丈夫なの?″

゛うん。もう大丈夫だよ。盲腸でね、緊急手術したの。ベットが空いてなくて婦人科病棟なんだけどね。″

苦しい言い訳なんだけど信じてくれた。

仕事はしばらく休んで様子を見て再開することにした。

手術後の経過は良くて一週間くらいで退院することになった。

医師は何度か話をしに来てくれたがいつも雑談になっていた。

私は退院したら祖母に会いにいこうと決めていた。

今の私は温もりが欲しかった。

祖母は海の見える少し高台にある療養所にいた。

まだ2月、木枯らしが吹いていた。

私が療養所の受け付けで名前を告げると若い職員さんが担当の介護士さんに取り次いでくれた。

゛はじめまして、田村といいます。真中さんのお世話させてもらってました。アヤコさんですよね。″

゛はい。祖母は今どこにいるんでしょうか。″

゛お祖母さまは一週間前にお亡くなりになりました。″

 …おばあちゃま…

゛お部屋にご案内します。こちらです。″

私は導かれるまま祖母のいた部屋に入った。

 おばあちゃまの匂いがする。




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