それでも、まだ。
『――…セシア!!』
セシアが咄嗟に目を詰むった瞬間、背後から声が聞こえたかと思うと、熱気がセシアの真横を貫いたのが気配で分かった。
そして恐る恐るセシアが目を開けると、そこに男はおらず、代わりに男に劣らないほどの殺気を放っているレンが立っていた。手には既に抜かれた刀がある。
『…レ、ンさん…。』
セシアがレンの背中を見ながらぽつりと呟くと、また背後から声が聞こえた。
『セシア!大丈夫か!?…おい、酷い怪我やないか……!』
シキも慌ててセシアの側に寄ると、上着を脱いで止血し始めた。
『…シキ、それ終わったらセシアを連れて組織に戻ってて。』
レンは男を睨んだまま低い声で言った。
男は面倒臭そうに頭をガシガシと掻いた。
『…チッ。面倒な奴らが来たもんだなぁ、レンよぉ。』
『…そっちこそ。今更何をしでかそうとしてるのさ、リーヤ。』
セシアは止血してもらいながら対峙している2人を見つめていた。
2人の放つ殺気は益々膨れ上がっており、見ているこちらの方が圧倒されそうだ。
『…主に言われて来てみりゃあ……お前らまで来てたとはな。』
リーヤと呼ばれた男の言葉に、レンはぐっと刀を持っている手に力を入れた。…生憎、背中を向けられているので、表情は分からない。
『主、か……。まだ黒組織が残ってたなんて知らなかったなぁ。』
『フン、馬鹿にすんじゃねぇ。…それに、お前らも薄々俺らに感づいていただろぉ?』
リーヤが不敵に笑うと、レンは姿勢を低くして構えた。
『まぁ、ね。…いろいろと頭の回転が速い智将がいるんでね。』
『……アヴィルか…。』
リーヤは表情を変えずに呟くと、槍を仕舞った。
『…どういうつもり?』
レンが姿勢はそのままにして聞くと、リーヤは黒のマントを再び被り直すと、両手を上げた。
『今日は勘弁してやるぜぃ。…まぁ、確認したいことが確認出来たしなぁ?』
そう言ってセシアの方をチラリと見た。
セシアはビクリと肩を震わした。
握りしめている拳は未だにカタカタと震えている。
『リーヤ、お前セシアに何したんや!』
シキはセシアを守るような体制になりながら言うと、リーヤは愉しそうに笑った。
『…何もしてねぇさ。…ただ、眠ってる記憶をちょいと刺激してやっただけだぜぃ?』
『『――…!』』
ブワッと2人から殺気が更に溢れたかと思うと、次の瞬間にはレンはリーヤの首に刀を突き付けていた。
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