時を止めるキスを
なおさら、この不躾な男の手に触れていると虚しさが増幅し、惨めな気持ちも募るばかり。いい加減、1人きりにして欲しいというのに、まさかの拒否権行使にはコチラが呆気に取られてしまう。
唖然とする私の目は自然と涙が止まっていたが、ちっとも嬉しくない。感傷に浸って、思いきり泣きたい時だってあるのだから。非難めいた視線を送ったのだが、チーフはまるで知らん顔。
諦めて項垂れていると、ポンポンと大きな手が頭に二度触れた。私が驚きのあまり顔を上げると、眼鏡の奥の眼差しは冷たく光っていた。
「泣くより仕事が先だ」
「…ええ、そーですね。所詮アラサー女の失恋なんて、社内に広まっても不憫にしか思われませんし」
そうだ、浮気されて失恋したと人前で泣き喚けるような年齢でもない。むしろ“これから大変だね”と不憫に思われ、妙な心配をされかねないだろう。悲しいけれど、適齢期というのはそんな厳しい一面が存在する。
「そうじゃない」
まるで人の心を読んだかのような口ぶりに、「……は?」と首を傾げたのも無理はない。すると、クスリと一笑して再び口を開いた彼。
「泣くよりセックスした方が心も晴れるんじゃねぇの?」