時を止めるキスを


とはいえ、見事にフラれたばかりの女にアドバイス出来ることはゼロ。


寧ろ哀れみを受けてしまいそうだが、さっきのように、ただ話を聞いて貰うだけでも救われる。


「全然いいよ!じゃあ、18時に……」

だから、彼が口に出すだけで心が軽くなるのなら少しでも尽力したい。



「――浅川、ミーティング・ルームAへ至急来てくれ」


“いつもの居酒屋で”と言い終える前に、私の席から数メートルはある地点から届いた声で、ふたりして口を閉じざるを得ない。


恐る恐る、そちらに視線を向けた。すると、当然の如く視界に入ったのは、瀧野 龍(たきのりゅう)その人。


どういうことだ、このオトコがなぜいる?——今日は午前中は会議に出席し、午後からは社長に同行して名古屋支社へと向かう予定だったはず。……ちっ、予定は未定か!



“楽しむのもテだろ?”

昨夜、イヤというほど耳元で聞かされた声色がリフレインしていく。付随してニヒルな顔つきまで思い出し、その動揺のせいで言葉に詰まっていた。



「聞こえたのか?」


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