時を止めるキスを
「どうぞ」と、返ってきた声は紳士的なもの。いつもこうであれば良いのに、と思いながらノブに手を掛けて前へとドアを開く。
「失礼しま…っ」
だがしかし、慣例的なフレーズのラスト一文字が言えなかった。
それもこれも、いきなり腕を引っ張られて拘束された挙げ句、口まで封じられたせい。
そんな私の後頭部を片手でがっちり支えたまま、もう一方の手でガチャリ、と無機質な音を立てて内鍵まで掛けていた。
一連の所作があまりに華麗だった犯人は、紛れもなく呼び出した張本人である。
その間に、私が持参した日本語訳に完了済みのファイルは、パサパサッと情けない音を立て床に落ちていた。
「ちっ、ふっ、ちょっ!」
この状況を打破したく、“チーフ”と声を上げようとしているのに。息つく間もなく、角度を変えて唇を重なったままでは到底ムリな話。