時を止めるキスを


きっと社内のことなら、知らない顔をしていただろう。柚さんはそういう人だと、この5年でよく学んでいる。


でも、自身の同期と直属の後輩が、“好ましくない行為”をしているとなれば、職場を案じるのは当然のこと。


それ以降、柚さんは何も言わなかった。だが、無罪放免で咎められない方がもっと辛い。


結局、すっかり冷めた定食を食べることも出来ず、申し訳なくも柚さんより先に席を立ってしまった。



心でダメだと思いながら、今もなおタカシから貰ったリングを外さずにいるのは、ドラゴンに誘われたい願望に抗えなかったから。


お互いのマンションでは避けて欲を満たすためのホテルなら、と次第に逃げ道まで作って正当化していた。……あんなに男の彼女さんを傷つけたくないと思っていたのに。


この指輪を填めている限りは、誰の目だって誤摩化せると完全に見縊っていた。


そんな甘い考えで勘の鋭い人を誤摩化せると思っていたのだから、もはや愚かとしかいえない。


ただ短期間で見抜かれるとは思わなくて、どれだけ男に溺れていたのかと怖くなってしまう。


無意識ほど怖いものはない。そう、私はどんな弁明も出来ないコトを男と重ねていた。


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