時を止めるキスを
ずっと持っていたカップには、ほぼ口をつけず仕舞いのエスプレッソが揺らめいている。
少し冷めたその苦みの強いコーヒーは、ここでお役御免の私のように不要にしてしまった。
こうして告げた“終わりの時”も、不器用な女の割には上出来な幕引きだったはず。
今も微動だにしない男に背を向けると、サーバーの隣にあるシンクの前に立つ。
但し、余裕なんて全くない私。カップを洗うのは明日の朝にしようとその場に置くだけにした。
そして一歩踏み出した途端、給湯室の出入り口で立ちはだかる男と再び目が合う。
「片づけろよ」
「明日しますから。……もう、気にしないで下さい」
だらしない女と知っているからか、それとも誰かに甘えて取り入るのが上手い、と間接的に嫌味を告げたのかは分からない。
こんな場面で呼び止められた声がいつもと同じで悔しかったから、含みある態度で返したのは女としての最後の意地。