時を止めるキスを


たった1ヶ月、されども1ヶ月。


全く気にしていなかったものが、一瞬で誰のものか分かるまでには十分すぎる時間だった。


それどころか、仕事中にこの香りが漂うと、親しみまで感じるくらいには化学変化を起こしたのだから。


恐怖の対象でしかなかった鋭い視線もそう。夜に眼鏡を外した素顔を目の当たりにし、次第に勤務中の彼の姿まで目で追っていた。


苦手な男の体躯なんて知る由もなければ、もちろん性の対象外だったくせに。


それが今は、シャツの向こうのsix pack(※割れた腹筋の意)に欲情を駆り立てられるのだから、時間の経過は恐ろしい。


おこがましいとは分かっている。それでも、私の中にみっともなくねだる女の部分が存在すると暴き出したのがチーフとは、今でも俄かに信じられずにいる。


時間が増すごとに膨らむ未練。さよならを告げた直後から感じる後悔。……そんな自分がたまらなく嫌だった。


そこから動けずにいると、彼はすぐ後ろの壁に背を凭れたのち、真横から射抜くような眼でこちらを捉えていた。



「――で?」


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