時を止めるキスを
これまで何回、もしもと心の中で仮定しただろう?どれだけ嫌い、と言い聞かせてきただろう?
あれほどまで無意味なものに縋っていた相手は、きっとチーフが初めてかもしれない。
ドラゴンを見た途端、別れがひたすら惜しかった。こんな最後の最後まで、彼への恋情が募っているのだから……。
そんな部下の不遜な態度にも構うことなく腕を組むと、どこ吹く風といった様子でこちらを見下ろしていた。
結局、これが男の本音。——面倒くさい女に成り下がった私は、もうお引き取り頂きたいご様子だ。
ここに一緒にいても、互いに何らメリットがない。と気づけば、息苦しいここを退出したくなってくるから不思議なもの。
今度は私から歩み始める番だ。その一歩を踏み出してすぐ、行く手を阻む障害物(チーフ)を避けるために道をそれた。
自然と縮まる距離に乗せて、清涼感のあるチーフの匂いが鼻腔をくすぐった。その香りにつられそうになり、奥歯を噛んで戒める。
「あの、そ、れでは……」
何もかもひた隠しにしてこの場を去りたいのに、自信なさげにしか言えない。ここまで来てもなお、自らの弱さが未練に勝てないのかと。