時を止めるキスを
それにしても彼は、何ら痛みを感じないアイアン・マンか?と、ここまで表情を変えないことに腹が立つのも本音。
最早ひとりで泣くのも情けなくなり、顎を捉えていた彼の手を振り払うと、涙に濡れた顔をゴシゴシと豪快に拭く。
さらに男の腕からもがいた挙げ句、出入り口まで足早に向かって彼との距離を取った。
安全地帯で振り返ると、ひどい泣き顔も気にせずに飄々とする男を最後にひと睨み。
「かえり、ます……!」
「帰るってどこに?」
「じっ、自分の家ですよ!」
必死の捨て台詞さえ鼻で笑われ、からかわれるとそれまでの涙も引っ込んでしまう。
自身を恥じながら踵を返すと、自分のデスクまで一直線でスタスタ歩いて行った。
内面を知ったようで、結局なにも分かっていなかった。いや、教えて貰えなかったのだと気づく。
今まで身体を許してズルズルと関係を続けてしまった自分が恥ずかしい。改めて、この男の彼女さんに申し訳なさが募る。
そう、離れる理由を忘れてはいけない。——逆恨みしている私こそが、この男の本命を傷つけ続けた悪い女だと。