時を止めるキスを
私は無言で片付けながら、いまだに背後にいる男とは、二度と仕事外で口を聞かないと固く心に決めていた。
というより、これから顔を合わせるのも嫌だ。出来ることなら、この男が好きなんて事実すら黒歴史にしたいところ。
そうだ、いっそのこと異動希望を出すべきか?社内の評判が高い男は重役からも重宝されているし、暫くはよほどの限り異動もない。
となれば、下っ端が動くしか方法はない。よし、お世話になった柚さんたちには申し訳ないけど、明日にでも早速……。
ほくそ笑みかけた瞬間、コツンと後頭部を軽くノックされる。跳ね返ったように振り返ると、その先には明らかに不機嫌なチーフが仁王立ちしていた。
今までとは比べ物にならないほど、眉根を寄せて睨まれて一歩引いてしまう私。昼間のお怒りモードが生ぬるく感じられるとは恐ろしい。
緊張を強いられてきたせいか、すっかり乾ききった唇で、「な、んですか」とたどたどしく彼に問う。
「ホント自己完結女だな。――“また”言いたいことも言わずに逃げんのか?」
「ど、どういう」
「今まで俺の方は努めて口にしてたつもり。――それに知らん顔で返さなかったのはオマエだ」
腕を組んで口にしたチーフの態度はふてぶてしさ満点。でも、反論の言葉なんて見つからなかった。