時を止めるキスを


ここまでつらつら淀みなく言えるのなら本当だろう、と思って聞いていた私は単純だろうが。


そもそも私が知る限りで、この男がこんな風に釈明するとは思えない。


イエスかノー、正しいか間違っているかそれがすべて、と彼の日頃の態度でよく分かっているから。


「コッチとしても弱みがあるわけ」

「弱み、って……?」


どこかうんざりしたように、「マンション」と発した男にはますます疑問が募るばかりだ。


「は?なぜ……?」


「アレ、親父の所有物件なんだよ。オーナーの意見を無碍に出来ねえのが面倒、でも立地的にあそこがベストなわけ。
もちろん俺も妹の心配はしてるし、アッチはアッチで便利とか暢気に言いやがるし。当分はこの形でしょうがねえの。……だから、毎回あれこれ持って上京するより、コッチのマンションに置いたままの方が楽だろ?」


ここまで来ると、いけしゃあしゃあと答えられる鋼の心臓には拍手を送るべきだろうか。


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