時を止めるキスを


ちなみに今は、明日の午前中までに仕上げなければならない資料の作成に急ピッチで追われている。


これはドイツ語のため、大学時代にドイツ留学していたため言葉の分かる私にしか出来ない内容であった。


英語だったらヘルプ出来るのに、と不憫そうな顔をした後輩や先輩に対し、大失態の汚名返上したいから“ひとりで大丈夫”と言いきった私。

だが、甘かった。膨大な資料の数に加え、日本語訳を入力するのが想像以上に大変だった。そう後悔するのがひとりきりの今とは、あまりに残念な状況である。


だが、やるしかない。引き受けたのは私で、誰も頼れる人はいないのだから。信用回復のためにも負けるわけにはいかないのだ。


うーん、と両腕を伸ばして気合いを入れ直したその時、デスク上に置いたままのスマホが着信を告げた。画面に視線を送ると、表示された名前に自然と頬が緩んでしまう。


「もしもし、タカシ?」

この前のシコリが残っていたのも事実だけど、それを許せるのも疲れきったこの状況に感謝かもね。……と、呑気な声を響かせたのもここまで――


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