時を止めるキスを
ちなみに私と彼の家は真逆の方向にある。つまり私は、この路線に乗ると自宅からはどんどん遠ざかるばかり。
別宅を目指すこの状況が、何だか流れに身を任せているだけのような気も……。
「アホ」
――これって、隣でサラリと失礼な発言をした男のせいではないだろうか?
「ええ、認めますけど。——ものすごーく、意地悪いって思われてますよ?私に」
「は?」と、怜悧な視線を容赦なく送ってくるとは優しさのかけらもない。
「本当ですよ?」と、にっこり満面の笑みを返す私もやっぱり意地が悪いのだろう。
もう上司だとか何だとか、ややこしいものはひとまず取り払って、自分らしく進んでいくことにした。
ドラゴンと対等に渡り歩くには、ちょっとしたことで動じていたら身が持たないと、この1ヶ月でよく理解したから。
泣きながらひとりで悩み、本音をひた隠しにして息苦しくなるより、ほんの少しは素直になった方が生きやすい。ーーと、それを体現する男が案に告げているから。
「藍凪」
「え?」
「——隙あり」